Black Musicを愛する者にとってNYの黒人居住区であるHarlemの「アポロ劇場」の名前は、特別な響きがあります。あのStevie WonderさんやMichael Jacksonさんが名物のAmateur Night(素人芸勝抜き大会)から生まれ、Duke Ellingtonさんが黄金時代を築き、その他の多くのミュージシャンもアポロ劇場で認められて一流と言われるようになった場所です。BB Kingさんは自伝の中で、70年代には白人中心のコンサートばかりに出演していたが、アポロ劇場だけは黒人の世界だったと書いています。
そのアポロ劇場も一時期は閉鎖されたりで以前ほどの勢いはないのですが、今でもHarlemの象徴的な建物となっています。そして、かつてスターを生み出したAmateur Nightは今も続いています。
何やら格好を付けた前振りが長くなりましたが、チャンスがあればそのAmateur Nightへ参加しようと思っていた訳です。でも実は、劇場前をたまたま通るとAudition案内のビラが貼ってあり、Tryしてみることにしたのがホントのキッカケです。
Auditionは土曜日の朝10:00より受付。こういうのは早目に行くのが良いのは百も承知なのに、30分以上遅れて劇場に着けば長蛇の列です。ダンスの練習を路上で続ける子供達といっしょに並んで貰った整理番号は200番に近かったです。それから待つこと3時間以上、自分の番になるかと思えば、審査員のランチタイム。更に30分ほど待ってようやくハーモニカが吹けました。ところが、一分も吹かないうちに打切り。これで不合格だったら納得できないぞ!って顔をしたら、あっさり合格となりました。
Auditionは春に受けたのですが、出演は秋になるとの話です。でも既に帰国を考えていたので、そこからがスタッフとの長い交渉となりました。約1ヶ月すったもんだを繰り返し、5月に出演できることとなりました。ただ、出演交渉に熱意を注ぐだけで、肝心のAmateur Nightを一度も見てなかったのが、今から思えばホント間抜けです。一回戦を経験するまで殆どAmateur Nightのシステムを知りませんでした。
Amateur Nightは簡単に言えば勝抜き素人のど自慢大会です。一回あたりの総出演者は14組ほどで、その内4組が次回へ勝ち進みます。判定は審査員がいる訳でなく、全て観客の歓声で決まります。パフォーマンスがつまらなければブーイングが起こり、途中でピエロが出てきてステージから降ろされます。Weeklyベースの一回戦(Regular Show)、Monthlyベースの二回戦(Show Off)、Quarterly ベースの準決勝(Top Dog)を経て、年一回の決勝戦(Super Top Dog)へ出場すると言うかなり気の長い挑戦です。持ち時間は約3分間ですがパフォーマンス内容に制限はなく、歌・ダンス・コメディー・詩の朗読何でもありです。私はひたすらハーモニカを吹きまくってました。
まずは一回戦。リハーサル後、楽屋で出場者全員が輪を作って「今日皆にチャンスをくれた神様に感謝し、皆が実力を出しきれますように」っとお祈りした時は、ゾクゾク来ました。しかし、その後の展開は、もっとゾクゾクでした! 確か自分の出番は3番目。出場者は順番に舞台の袖で待っているのですが、最初のPerformerは拍手喝采だったものの、2番手は激しいブーイングで、サイレンが鳴って志半ばで舞台を降ろされちゃいました。他人に向けられたものですが、罵声は楽屋までガンガン聞こえてきますから、次は我が身かと思うとさすがに足が震えました。出番を待つ他の出演者(私以外はアメリカ人)も緊張の余り顔面蒼白です。しかし、自分の出番ともなれば気合で乗り切るしかありません。東洋人は出るだけでブーイングが起こるのですが(ここがAwayで演奏する時のつらいところです)、何とか吹き勝って?最後は拍手で終わりました。楽屋に戻れば他の出場者から「おめでとう!」の嵐。出場者同士はライバルとは言え、共に修羅場を体験して妙な連帯感があります。一回戦は3分の1ぐらいの出演者がブーイングで落とされました。最後に生き残った出場者がステージで紹介され、拍手の量で決まった順位は3位でした。
そして二回戦。こちらは一回戦を勝抜いてきた人達の争いとあってリハを見てもかなりレベルが上がってます。自分のリハはパッとせず、あきらめモードとなってました。実は自分で作ったカラオケでそれまで演奏していたのですが、劇場のハウスバンドのRayさんが、「俺らがバックをつけてやる」っと一声掛けてくれて流れが変わりました。リハの時間は5分足らず。でも、本番では、日頃無駄じゃないかと感じていたブルースセッションでの経験が役立ちました!バンドとぐんぐんコミュニケーションができて、今回も最後までプレイし、上位5位の中に潜り込みました。でも、4人しか生き残れません。今回は一位から順番に呼ばれましたが、とうとう最後の2人に残っちゃいました。残った2人を並べて観客に拍手させ、選ばれたのは幸運にも私でした。ウソみたいなホントの話しです。
そして、実はこの段階で帰国となったんです。いくらなんでもアポロ劇場のためにNYへ舞い戻るのは考えられず、普通なら準決勝は辞退でしょう。
神様は嬉しいイタズラをしてくれました。
続きは次回で。。。