nobu_bob_talk 7 ミュージシャンの生き方を知るには?の巻


本を読むとサウンドの裏側にあるものが見えてきます



音楽関係の本を読むのは好きです。CDはボーッと聞いていると、何も頭に残らないこともありますが、本は投げ出さずに最後まで読めば、それなりに何か考えさせられます。スピードが遅いので読書量は少ないのですが、今回は、アメリカに来てから出会った2冊の本を紹介します。1冊はブルースマンであるBB Kingさんの自伝、もう1冊は、ホワイトブルース(白人が演奏するブルース)が産まれた頃に活躍し若くして亡くなったMichael Bloomfieldさんの伝記です。

まず、最初はBB Kingさんの自伝“Blues all around me”(BB King & David Ritz共著)です。BB Kingさんはブルース界で一番成功し現在も活躍しているミュージシャンですが、両親の離婚そして母親の死別等恵まれない幼少時代を過ごします。子供の頃、自分の食事を作ってくれる人がいなかったことは、大きな影を落としています。そして、生まれ育ったアメリカ南部は、人種差別が激しい地域でもありました。そのような環境でストリートミュージシャンから出発し、当時南部で人気のあったラジオ番組を担当していたハーモニカプレイヤーのSonny Boy Williamsonさんを放送局へ突然尋ね自分を売り込んだりしながら、チャンスを少しずつ掴みます。BB自身がラジオ局のDJになるまで、レコードを自分で自由に聞いたことがなかったとの逸話は、現在と環境が違い過ぎるんじゃないでしょうか。浮き沈みが激しい世界の中で、いつも同じ音楽(=ブルース)を演奏しながら、最後まで生き残って行く過程が、ロード(ドサ廻り)やなんとも凄い女性遍歴のエピソードと共に描かれています。自伝を通して一番印象に残ったのは、彼が歌うブルースは、彼の人生そのものだということです。

一方、Michael Bloomfieldさんの伝記“If you like these blues”(Jan Mark Wolkin著)は、肉親を含む関係者そして本人へのインタビューを、幼少時代から亡くなるまで順を追ってまとめたものです。Michaelは、ユダヤ人の裕福な家庭に生まれ、シカゴの高級住宅街で育つ、まぁ、いいとこのお坊ちゃんでした。両親が雇っている黒人メイドの家にへ遊びに行ったりして、ブルースとの出会いが始まります。そんな息子の状況を快く思わないであろう両親の気持ちとは裏腹に、学校をドロップアウトしたMichaelですが、やがて、ギターが彼の人生を導きます。黒人の音楽だったブルースを、白人が演奏し、そして、聞くようになったのは1960年頃からですが、彼はまさにその時期に、白人ハーピストであるPaul Butterfieldさんが率いるブルースバンドの看板ギタリストとしてレコードデビューします。その後、自分の音楽を求めてバンドを脱退、Al Kooperさんとのセッション等の名盤を残しますが、Drugの世界にはまり、最後は車の中の身元不明死体として発見されると言う悲しい結末を迎えます。Paul Butterfield Blues Band結成時のエピソード(決してMichaelは自分から進んでバンドに入ったのではなくレコード会社の意向だった)やBob Dylanさんとの交流等、時代を感じさせるエピソードがいたるところにあるブルースファン以外でも楽しめる力作です。

2冊を読み終わって考えました。
BBは恵まれない状況からブルースを出発させましたが、Michaelは客観的に見れば恵まれた状況よりブルースを出発させます。
人種だけでなく生まれ育った環境が全く違う2人にとって、音楽、そしてブルースはどういう存在なのでしょうか?
そして、いつもの「日本人としてプレイする自分にとってブルースは何だろうか?」との問いに辿り着きます(ちょっと、難しい方向に話題がずれちゃいましたが、その答えは、各ミュージシャンがプレイする音楽の中に表現されている筈です)。

一読者としての感想はさて置き、機会があればこの2冊の本、是非、手にとって見て下さい。ここでは紹介しきれない裏話満載です。BB Kingさんの自伝は日本語訳も出ています。Michael Bloomfieldさんの伝記は最近出版されましたので、まだ英語版だけだと思います。



“Blues all around me”と“If you like these blues”

その他にブルース関係で面白い本としては、“Searching for Robert Johnson”(Peter Guralnick著)があります。Robert Johnsonさんは、Eric ClaptonさんやRolling Stonesに曲をカバーされたロックファンにも有名な凄腕のブルースマンです。しかし、レコード録音と噂話以外、写真すらない謎の人物とされていました。以前は、顔を見せず背を向けてギターを弾いている黒人のイラストがレコードジャケットとなっていました。その謎の人物を捜し求める過程を描いたのがこの本で、最終的には死亡証明書(アメリカには戸籍はないんです)と写真を発見し謎が明かされます。確か、日本語訳をどこかで見たように記憶していますが、現在は絶版みたいですので、図書館で捜してみて下さい。
そして、番外編として、“Blow up!”(細野 不二彦著)という日本のコミックもお勧めです。こちらは、大学を中退してプロを目指す、ジャズミュージシャンの話です。このコミックの作者は、自身が音楽関係者じゃないかと思うぐらいミュージシャンを良く観察して描いています。プロを目指す!と決心しても満足できる練習仲間・場所すら見つけられないミュージシャン・タレントのバックミュージシャンが吐く本音・大言壮語するだけのバンドマン・実力があってチヤホヤされるものの、心底では自分を伸ばす為ホントのライバルの出現を待ち望む若いミュージシャン・名声は過去のものとなってしまった有名ミュージシャンの苦悩、そして、飲んだくれでだらしないのに心底は憎めないミュージシャン崩れのオッサン等々、時代背景がバブルであるのを除けば、国境を越えて今でも身につまされる内容ばかりです。

自分でプレイしない場合でも、ミュージシャンの生き方を知って音楽に耳を傾ければ、思わずニヤッとすることもあり、楽しさが増すこと間違いありません。CD・コンサートでかつての感動を得られなくなった音楽ファンの次の一手は読書じゃないでしょうか??