nobu_bob_talk 6 ブルースハーモニカ vs クロマチックハーモニカの巻


ブルースハーモニカとクロマチックハーモニカって、何が違うの?



ハーモニカには色んな種類がありますが、 ブルースハーモニカ クロマチックハーモニカ は、ソロを吹く時によく使われています。ブルースハーモニカは手の平に入る程小さなサイズの楽器で、曲のキーに最適なものを選んで演奏します。セッションに顔を出す時は、12本以上のブルースハーモニカを持って行きます。クロマチックハーモニカはサイズも大き目ですが、レバーを使って1本だけで全ての音階(スケール)が出せます。この2つのハーモニカ、結構演奏方法が違うんです。勿論両方吹くプレイヤーもいる一方、2つは全く違う楽器だ!っと言い切る人もいます。

初めてハーモニカを吹く場合、どちらを選んだら良いか迷った人も多いと思います。

昔読んだ教則本には、フォークやブルースを吹くならブルースハーモニカ、Toots Thielemansさんのようなジャズを吹くのだったらクロマチックハーモニカと書いてあったように記憶しています。ブルースハーモニカで出せる音階だけでは、複雑なコード進行の多いジャズの演奏はかなり難しいとされていました。

全ての音階は出せないと言われていたブルースハーモニカですが、ここ10年でその定説も大きく変わりました。ハーモニカを吹き始めた15年以上前、Richard Hunterさんが書いた“Jazz Harp Study”と言う教則本の翻訳版が日本で発売されていましたが、上級テクニックコーナーに、Overblowとか、Overdrawと言う裏技を使えば、ブルースハーモニカでもクロマチックに近い音階が出せると書いてありました。しかし当時ボクの周りでは、“本当にそんなことできるのかな?”みたいな反応が大半でした(そんな中で「サックスプレイヤーの中には鼻から吸った息を口から出して延々と吹き続ける人もいるんだから、ブルースハーモニカでクロマチック音階を吹ける人だっている筈だ!」とハーモニカを吹いたことの無いT君は主張してました。しかし、その時は、殆ど支離滅裂な直感的意見にしか聞こえなかったんです……後に深く反省することとなります)。

そうこうするうち、バンジョープレイヤーのBela Fleck さんが率いる The FlecktonesのメンバーだったHoward Levyさんが、ブルースハーモニカで凄いフレーズを吹くと言う噂を聞き、確か、1991年か92年の来日時に目の前でそのテクニックを見る機会に接しました。コンサートの合間にHowardさんに声を掛けて、ステージの袖でOverblow・Overdrawを使った色んな音階を吹いてもらいました。Howardさんのサウンドを聞いて、ブルースハーモニカでもクロマチック音階が吹けることが初めて確認できました。その場では、ハーモニカプレイヤーのYさんといっしょに様々なことを質問しましたが、Howardさんは非常に丁寧に答えて下さいました。Howardさんはブルースハーモニカの可能性を大きく広げたパイオニアですネ。

NYに来てからもセッションが終わった後なんかに、他のハーモニカプレイヤーから、Howard Levyって知ってるかい?と聞かれたり、こんな音階吹けるかい?と話し掛けられたりすることがあります。ボクの周辺では1990年代中盤から、Overblow・Overdrawテクニックは急速に普及しました。

じゃあ、クロマチックはブルースハーモニカに取って代わられたかと言うと、そんなことは全くありません。NY周辺では、クロマチックハーモニカでブルースを吹くプレイヤーがかなりいます。地下鉄のホームで、ジャズ・クラシックをクロマチックハーモニカで演奏する人に何回も出会いました。



Times Squareや59丁目の地下鉄ホームで、クロマチックを使ってクラッシックを吹いていたJasonこと、Shen Jiさん
ドイツのトロシンゲンで勉強したと話してました
最近、お姿を拝見しないけど、上海に帰ったのか??

Howard Levyさんは以前お会いした時、ブルースハーモニカが好きだから特にクロマチックの必要性は感じないと言っていました。今迄に出会ったクロマチックハーモニカプレイヤーの中には、ブルースハーモニカの限界を指摘した人もいます。

さすがにNYでも、クロマチックとブルースハーモニカを同時に2本、口にくわえて吹く人は見たことはありません。もし、プレイヤーとしてどちらかを選択するのであれば、自分の求めるサウンド(音階じゃなくて音質)が何かによって、決めるのがベストだと個人的には考えます。ブルースハーモニカは太い音、クロマチックは繊細なサウンドを持っています。リスナーとしては、ブルースハーモニカとクロマチックハーモニカの音が聞き分けられるようになれば、音楽の楽しさも2倍になるんじゃないでしょうか?

クロマチックハーモニカで吹くブルースに興味があるのでしたら、Paul DeLayさん(彼はちゃんとクロマチックのレバーを使ってブルースを吹いています)のCD、ブルースハーモニカで吹くジャズに興味があるのでしたらHoward Levy門下生のSandy WeltmanさんのCDが入手しやすいので参考になると思います。